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不機嫌ハラスメント

あるクライアントさんのお話です。

(ご本人の許可をいただいています)

 

彼は20代前半の医療従事者。

 

社会人3年目の働きざかりです。

 

最近職場にいると辛くて逃げ出したくなると言うのです。

 

日曜の夜になると憂鬱な気分が襲ってきて、翌日の出社が嫌で嫌で仕方がなくなる。 

 

眠れない日が増え身だしなみにも影響が出始めていました。

 

そんな事情で私のところに連絡をくれたのです。

 

数回にわたってセッションを行いました。

 

出社拒否の原因は「直属の上司の態度」でした。

 

上司が彼の仕事ぶりを全く評価しないのです。

 

しないどころか彼がやった仕事を大したことではないと一笑し

 

次々と仕事を振ってきます。

 

 

最初は「そんな性格の人なんだろうな」と気にしないでいた彼でしたが

 

ある日、同僚に対しての態度と自分への態度が全く違うことに気が付きます。

 

上司は自分だけに不機嫌で冷たい態度を取っていたのです。

 

自分の何がいけないのだろうか…

 

そこから彼の苦悩が始まりました。

 

信念に従って仕事に取り組んでいた彼ですが、その日を境に上司の顔色が

 

気になりはじめます。

 

事あるごとに上司の顔色を伺うようになり

 

上司が不機嫌な態度を取るたびに「自分はダメだ」と言う自己否定感に

 

苛まれるようになりました。

 

それが身だしなみに現れていたのですね。

  

彼が上司から冷遇されるのは彼の言動が上司の意にそぐわないからです。

 

忖度して痒い所に手が届くように動いてくれる部下には感謝の言葉と満面の笑みで接しますが

 

そうでない彼に対しては同じ人間かと思うほど不機嫌な態度になるのです。

 

相手によって態度を変える。

 

気にいらない(自分の思い通りにならない)相手には不機嫌な態度で接する。

 

面と向かって攻撃はしませんが、表情(非言語)で人を攻撃するタイプの典型でした。

 

彼に心理的かつ身体的な問題が出ており、辛さを感じているため、

 

このケースは「不機嫌ハラスメント」(別名 フキハラ)だと思われます。

 

このフキハラは攻撃している本人に自覚がなかったり、またあったとしても、

 

他人からは見えにくいので介入しづらく、ちょっと厄介です。

 

コミュニケーションは「言葉」よりも「非言語」の方が相手に伝わります。

 

言葉でいくら良いことを言っても態度や表情が逆であれば後者の方が相手に届きます。

 

「何を言ったか」よりも「どんな態度で言ったか」の方が伝わってしまうのですね。

 

不機嫌(非言語)な態度で間接的に人を攻撃する。

 

これは日常でもよく見る光景です。

 

私も疲れて家事をしたくない時に、主人がテレビを楽しそうに見ているとイライラして

 

わざと大きな音を立ててドアを閉めたり包丁の「トントントントン」と言う音に

 

「手伝え~手伝え~手伝え~」と言う念のようなものを込めながら

 

不機嫌さをアピールすることもあります。

 

(心理カウンセラーも人間なんですよ、こんな日もあります

 

不機嫌ハラスメントはする側にもされる側にもなり得ます。

 

 

なぜそんなことをするのでしょうか?

 

それは「相手に自分の思う通りに動いて欲しいから」なんですね。

 

私の場合「疲れているから夕食の準備をしたくない。でも、出張で家をあけることが

 

多いから家にいる時ぐらいは手作りで体によいものを作ってあげたい、

 

だけど正直しんどい」

 

心の中で、自分の本音と相手への期待を認め、それをそのまま受容することが大切です。

 

「相手に(自分の)本音を察して動いて欲しいんだな」

 

この時「良い、悪い」の判断(考え)は一旦脇におきます。

 

そうしないと考えに邪魔をされて「本音(心の声)」が表に出てきにくくなるからです。

 

自分の本音を表に出してあげないとどんどん苦しくなります。

 

真面目で完璧主義な方は自分の本音を「甘え」だと判断し、自分にも厳しい声を

 

かけたりすることが多いのではないでしょうか。

 

ストレス初期の場合はそれで自分を𠮟咤激励してうまく行くこともあると思いますが

 

自分の気持ちがコントロールできない場合は、そのやり方は逆効果になることが

 

多いです。

 

そういう場合は、自分の本音(心の声)の方を大切にしてあげたほうが効果的です。

 

トイレや入浴中、車の中、朝だれも起きていない時間など生活の中で一人になれる時間

 

を見つけ、自分の本音に耳を傾けてあげて欲しいと思います。

 

自分の本音に気付けたら(関係性にもよりますが)それを相手に伝えたり、

 

信頼できる誰かに聞いてもらったり、誰もいないところでつぶやいてみたり、

 

ノートに書いたり、はたまた車の中で叫んだり

 

何らかのかたちで表に出してあげれば、少し落ち着くので

 

不快な気持ちが悪化するのを止めることができます。

 

 

ですが、自分の本音に自分で気付いていない時やその本音を自分が禁じている時は

 

不快な気持ちがエスカレートして、不機嫌な態度がコントロールができなくなって

 

しまいます。

 

残念ながら相手は自分と同じ人間ではないので察してもらえないことの方が多く

 

お互いにどんどん不快な気持ちになってしまいます。

 

こういったコミュニケーションはあまり心地のよいものではありません。

 

心理学の専門用語で「心理ゲーム」と言います。

 

1950年代に交流分析を提唱したエリックバーンはこの心理ゲームを発見し

 

書籍として世に出した途端全米でベストセラーになりました。

 

一言で言うと「不快な気持ちが続くコミュニケーション」です。

 

 そうやって見ると心理ゲームは日常で観察できます。

 

喧嘩、いじめ、ハラスメント、陰口、詐欺、嘘、不倫、DV、殺人、ストーカーetc

 

人間関係で不調和を起こすコミュニケーションはすべて心理ゲームとも言えます。

 

実は「戦争」も心理ゲームに入るのです。

 

彼と上司のコミュニケーションもこの心理ゲームでした。

 

この問題を解決する上で大切なことは「客観的な視点を持つ」ことです。

 

「上司が不機嫌なのは上司の問題であって自分がダメな訳ではない」と気づき

 

上司との間に境界線を引くことが解決の糸口になります。

 

「上司の不機嫌」⇒「自分がダメ」

 

と反射的に思ってしまう考え方を修正する必要があるのです。

 

「相手の不機嫌は相手の問題であって自分の問題ではない」

 

心からそう思えたらここまで上司の顔色を気にしなくて済むのですが

 

実は彼にはそう思えない弱みがありました。

 

 

彼は幼いころから優等生として生きてきてこれまでの人生において挫折体験がありません。

 

小さい頃から優秀で努力家だった彼はがんばった分だけ結果がついてくると言う体験を

 

重ね、家族や周りの大人から賞賛を受けて育ちました。

 

子供だった彼は次第にこう思うようになります。

 

「他人から認められる自分は価値がある」

 

これは裏返せば

 

「他人から認められない自分は価値がない」

 

非常に極端ですが価値観を吟味する力が育っていない子供のうちはこういう

 

白黒的な思考をすることがあります。

 

これはまったくもって事実ではありません。

 

大いなる嘘です。

 

ですが幼かった彼は小さい頃の体験を通して、

 

「認められない自分には価値がない」と言う「思い込み」を作っていたことが

 

セッションを通して分かりました。

 

 上司が自分にだけ不機嫌な態度を取る時、

 

お前は価値がない」と言われているような気がして苦しかったのですね。

 

彼にとって上司から認めてもらうことは自己価値に直結する大事なことだったのです。

 

セッションの間中、彼は上司が認めてくれないことをずっと嘆いていました。

 

こういうケースはカウンセリングをしていて多いです。

 

 

この間違った思い込みを変えていくには思考の修正を行う必要があります。

 

彼にもまずは思考の修正を行いましたが

 

頭(思考)では納得できても心(気持ち)がついて行きませんでした。

 

つまり腑に落ちなかったのです。

 

 

こういう時に有効な手段として、本音の感情を感じる方法(感情処理法)があります。

 

「自分はダメ(自己無価値感)」と言う不快な感情の奥にあったのは

 

「理不尽さへの怒り」でした。

 

「怒り」は誤解されがちな感情ですが実は問題解決につながる感情です。

 

理不尽な目に合った時に怒りを感じることで内側からエネルギーが湧き、

 

問題解決のための行動に駆り立てられます。

 

なので怒りは理不尽さから自分を守る感情とも言えます。

 

逆に怒りを感じないようにすると内側(自分)に向かうので

 

自分を責めたり否定するようになります。

 

彼の場合も上司に対して「怒ってはいけない」と考え

 

怒りを感じないように抑えていたので

 

それが内向し「自分はダメだ」と言う自己無価値感を感じてしまっていたのですね。

 

この「自己無価値感」は感じれば感じるほどにひどくなります。

 

当然、会社にも行きたくなくなります。 

 

彼がこのストレスから解放されるには、その奥にある「理不尽さへの怒り」

 

を感じ、息と共に体の外に吐き出すことが大切です。

 

これを「感情処理法」と言います。

 

早速、彼に感情処理法を試したところ割とすんなり「理不尽さへの怒り」を

 

吐き出すことができました。

 

同時に「認めてもらえなくて悲しい」と言う気持ちも出てきたので吐き出しました。

 

 

するとどうでしょう。

 

彼の表情がみるみると明るくスッキリしてきたではありませんか。

 

心の奥底で感じていた素直な気持ちを感じて吐き出せば吐き出すほど

 

スッキリします。

 

「上司が不機嫌なのは上司の問題だ」

 

「自分のせいではない」

 

と言葉に出して言ってもらったところ

 

憑き物が落ちたような明るい表情になりました。

 

「腑に落ちた」瞬間です。

 

思考の修正だけでは腑に落ちませんでしたが感情処理法を用いることで、

 

心でも納得することができたのです。

 

 

それ以来、彼は上司の表情が以前ほど気にならなくなりました。

 

不機嫌な態度を取られた時はトイレで息を吐きながら

 

怒りや悲しみを吐き出しました。

 

次第に自己無価値感は減り上司の顔色に左右されず自分らしく仕事を

 

するようになりました。

 

数週間後、突然上司が彼のところに来て労いと感謝の言葉をかけてくれたそうです。

 

それ以降、上司との関係は劇的に改善し以前と同じように仕事ができるようになりました。

 

日曜の夜も憂鬱な気分にならず月曜日は元気に出社できるようになったのです。

 

上司を直接的に変えたわけではありませんが、上司への反応が変わることによって

 

二人の間の見えない何かが変わったのかもしれません。

 

他人を変えることはできませんが自分が変わることで相手との関係が

 

改善することがあります。

 

これが「自分が変われば相手が変わる」と言うことなのですね。

 

一つ壁を乗り越え成長した彼は今、生き生きと仕事をしてらっしゃいます。

 

自分の「不機嫌」をあるがまま受け入れ、相手のせいにせず「自分の問題だ」と捉え、

 

本音を大切に扱ってあげて欲しいと思います。

 

私も自分の本音を大切に扱うようになってからは、

 

主人との間で心理ゲームをする時間はぐんと減りました。

 

本音をなるべく早い段階で伝えるようにしたのです。

 

不機嫌がエスカレートする前に表現することが出来たら、

 

「何であんなことを言ってしまったんだろう」

 

「何であんな態度を取ってしまったんだろう」

 

と、後で後悔することを減らせると思います。

 

これを読んだ方が一人でも

 

「自分の本音を大切にしよう」

 

と思ってもらえたら幸いです。